世の中、ホームシアターと言うと、5.1ch(チャンネル)とかサラウンド大迫力が注目されていますが、まずは、ステレオ(2ch)を理解しましょう!急がば回れです。さて、「ステレオって言ったって、人間の耳は左右2つ、だから、左右それぞれにマイクとスピーカーを用意すればいいだけの話じゃないか。」「実際、家庭用ビデオカメラなんかは、カメラの先端両側に左右のマイクがついてるんだし・・・」そう、お考えの方は多いでしょう。 ところが、よく考えてみて下さい。

 一般的に
オーディオのスピーカーは自分の2〜3m前方に置かれます。 では、マイクの位置は?・・・あれ、そう言われてみれば?
 実は、ヘッドフォンで再生することを前提に、頭そっくりの形をした「ダミーヘッドの耳の位置」にマイクを設置して録音する
「バイノーラル録音」という方式があり、これは、「耳・マイク・スピーカー=どれも2つ」という単純な図式になります。おもしろい方法なので後述します。それは置いといて・・・、

 通常の
ステレオの録音・再生は、なかなか難しい問題を抱えているのです。ここでも「位相」の問題が出てきます。


図1
カラオケのマイクみたい・・・
指向性マイクはこんな形してない(笑)



図2

 音は「物体の振動」によって生じますが、普通、一個の物体が振動しています。しかしステレオ装置で正面から音が聞こえようにするためには、左右のスピーカーから全く同じ音を発生させ、真ん中の何もない空間から音が聞こえてくるように感じさせます。

 つまり、基本的には
「同じ音量(音圧)で、左右のスピーカーの時間ズレが無く、位相差も無いこと」が条件になります。もちろん、左右違うスピーカーを用いれば「音色」が違うのでこれもダメです。

 では、やや右側から音がするように感じさせるためには・・・?
 結論から言うと、
音量(音圧)差だけをつけた場合が、一番自然に聞こえると言うことが実験的に確認されています。もし、これに位相差が加わると、音の方向性は曖昧になり、時としてかなり違う方向から聞こえてくるような錯覚に陥ります。(この現象を利用したのが、バーチャルサラウンド=仮想音源です・・・後述予定。)

 そこで、この条件を満たす最もシンプルな録音方法としては、「ワンポイントオフマイク」が上げられます。つまり、マイク設置場所は1点で、音源からかなり離れている(オフ)の状態です。

 オーケストラのコンサートを想像してみてください。マイクの設置位置は、コンサートホールの真ん中、やや前方の座席になります。ここで図1のように、前方の狭い範囲の音しか拾わない「指向性のやや高い」マイクをX字に設置します。
 なお、ホールの反射音(間接音、残響)を収録するために、後ろ側に向けて指向性の広いマイクを加えることもあります。

 もし、図2のように、ステージ目の前にマイクを設置してしまうと、手前の楽器の音は強く録音されますが、舞台袖の楽器の音は弱く、しかも、「時間的遅れ・高音域の減衰・微弱音のマスキング」というやっかいな問題が生じてしまいます。ちょうど、広角レンズで写した写真に似ています。

 また、左右のマイクを離して設置すると、左右マイクに到達した音には、
「時間のズレ・位相ズレ・周波数特性の乱れ(遠い方のマイクへは、高音が減衰しやすい)」という違いが生じてしまいます。

 しかし、全ての録音をコンサートホールで行うことは実現不可能だし、オフマイクでは、
「マイク近くの雑音を拾いやすい・弦をつま弾く音などの微小音は収録されがたい」などの欠点もあるのです。

 そこで、現在では、楽器一つ一つに個別のマイクを配置し、極く至近距離で収録する
「マルチマイク(別名:マルチモノ、オンマイク等々)」方式が主流となっています。そして、編集する際に、例えば「右:左=6:4の音量で記録」といった人工的な加工を加えています。ですから、オーケストラでは何十本ものマイクが使われますが、反面、収録は楽器個別でも可能なので、必ずしも一同に会して演奏しなくても良いわけです。

 おやおや!? マルチマイク+ミキシングの生録音なら、まだマシな方で、ポップスでは
「打ち込み」が当たり前じゃないか!という声が聞こえてきそうですね。打ち込みとは、大雑把に言うと、電子楽器の音をコンピューターで加工することです。1音ずつの音程、長さ、強さ、 持続時の変化の仕方などを細かく加工できます。現代の録音では、音を加工することは当たり前になっており、CDでも優秀録音盤とそうでない物の差が大きいようです。例えば若者向けの日本の歌謡曲(J-POP)では、周波数特性の狭いラジカセやミニコンポに合わせた音の加工がされている例が多く、フルサイズのコンポーネントステレオで再生すると、いかにも不自然であることがばれてしまう事があります。

 エフェクター活用術「手軽にホームレコーディング:古川俊一著」から、録音技術の例を挙げ、人工的な音の加工についてご紹介します。

リミッター
 変化が急激で不自然な音にならないようにするため、録音レベルの基準値を設定し、これより大きな音はレベルを下げる。
コンプレッサー
 録音レベルの基準値を設定し、これより大きな音はレベルを下げ、小さい音はレベルを上げる。音の粒を揃えたり音圧感を強調する。ギター等では原音とは違う音の伸びが作れる。
イコライザー
 音をいくつかの周波数帯に分割し、各帯域をカットしたりブースとしたりする。変化する周波数の幅をコントロールことをQという。例えば、ボーカル(歌声)が沈みがちな場合、この帯域のQやブーストの程度を調整して、声の感じが強くなるように設定する。
ディレイ
 音を遅らせるエフェクト。遅れ時間の長さや設定によって、エフェクトの音の変化が異なる。例えば、数ミリ秒の遅れを使うフランジャーでは、原音とミックスしても音はだぶって聞こえないが、(位相)干渉によって特定の周波数の音がうち消され音色が変化する。このため、ある周波数の奇数倍の倍音がうち消される。
LFO
 ディレイタイムを周期的に変化させるためのLFO(ローフリークェンシーオシレータ)により、フランジャー、コーラス、ビブラートなどのエフェクトを作り出す。
リバーブ
 響きを作り出すエフェクト。狭いスタジオ収録であっても、響きが豊かな広がりのあるサウンド空間が作り出せる。

マイクのセッティング
 ドラムセットの収録を例にすると、ドラムセットは、ドラム系の楽器群とシンバルによって構成されており、それぞれの音の性質が違うし発音する場所も違うため、最低4本くらいのマイクが必要とされます。特に、シンバルの高音の響きを拾うには、
コンデンサーマイクが適しています。 コンデンサーマイクは、静電容量の変化から音声信号を発生するマイクロフォン。振動板を極めて軽く作ることができるため、高域までの広い周波数特性が特徴。高価で、乱暴に扱うと壊れやすい。なお、おすすめ機器で紹介している。STAXのヘッドフォンはこのマイクと同じ原理のコンデンサー型で、高域の伸びが良いのもうなずけます。(動作原理については、STAXのHPを参照してください) ちなみに、コンデンサー型のスピーカーというのもありますが、大音量と重低音は得意ではないようです。

 さて、録音の話しを例に、
ステレオという一見シンプルそうで、実は奥が深い世界の一端をご理解いただけたでしょうか? 原音再生の理想はストレートな伝送とされ、入力から出力まで、極力シンプルかつクリーンな経路とした方が良いといわれてきました。しかし、ステレオ感の再現にも、各時代によって考え方の変化があり、これは主に技術の進歩に伴って変遷してきたようです。このように、録音技術そのものが複雑怪奇?になっている現在、「シンプル=ベスト」が難しい時代になっているのかも知れません。生録では、余韻(間接音や残響等)や、人の息づかい等、微弱だけれども、生々しさの再生に重要な要素人工的加工では再現し得ない自然な形で記録されている可能性もあります。それを再生できるかどうかは、機材と、その使いこなしにもかかってくるでしょう。オーディオ装置を購入する際は、イルミネーションなどの音に関係ない余計な回路は、ノイズの発生源になることはあっても、良い音のためにはなんの役にも立たないと考えた方がよいと思います。

もちろん、この先に、記録方式(記録媒体)、増幅装置、スピーカー等々の長い長い道のりが待っています。
要点だけでもご紹介して行きたいと思います。

つづく・・・。