そ よ 風 は 何 い ろ
- roadster story -




 「 琵 琶 池 」

14 自由

 WRCが中国で開催されたときの話。普段の生活では自動車との接点がほとんど無いような地域の住人でさえ、初めて見る「ラリースペシャルマシン」には目を見開き、血湧き肉躍り、興奮を禁じ得なかったそうだ。「あのような車に乗ってみたいと思うか?」という質問に、当地の若者は絶句しつつも、ただ一言「欲しい」と答えたとか。

 レポーターは言う、自動車という存在が、農山村などの旧来の因習や伝統といった頸城(くびき)から人々を解き放ち、自由という新しい世界へ飛び立つための「夢」の存在であることを、直感的に感じているのだと。

 「右肩上がり」や「拡大志向」を素直な喜びとして感じることが難しくなった昨今ではあるが、自動車の持つエゴイスティックなまでの魔性の魅力を否定することからは、自動車の未来を探ることはできないと思う。確かに、人は自らの将来を閉ざしてしまうほど愚かな存在であってはいけない。でも、初めてハンドルを握ったときの興奮までをも否定して、人間という存在を理解することはできないとも思うのだ。

 現代の若者には、自動車に対する特別な思い入れはほとんど無いと言われる。そうかも知れない。便利な反面、ささやかな感動すら得難い世の中にあって、自動車が特別な存在だとは感じられないのかも知れないが、公共交通機関の無い地方育ちの私には、まるで信じがたいことだ。それとも、今の世は私たちが望んだ結果だとでも言うのだろうか?

 まぁ、厭世(えんせい)しても何も始まらないが・・・。

 さて、ロードスター。こいつには、空と風を愛でるための二座席の空間しかない。なんてことは無い車である。都市の風景にも自然にとけ込む姿態は、でもやはり、カントリーロード(田舎道)の方が良く似合うと思う。この車と暮らす幸せがどれほどかけがえのないことだったのか、私は忘れないでいようと思う。
 自分を頸城から解き放つためにも・・・。 
 
(2004/10/3)

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