そ よ 風 は 何 い ろ
- roadster story -




直列6気筒用フルカウンタークランクシャフト(S20用)
直6は長いため剛性面で不利と言われるが、
V6はコンロッド2つを共有するため、必ずしもそうではない。

17 完全バランス
 
 「モーターのように滑らか」とはエンジンへの最大の賛辞だが、爆発の脈動をムラのない円運動に変えるのはなかなか難しい。混合気の爆発エネルギーを「ピストン」→「コネクティングロッド」→「クランクシャフト」によって往復運動(レシプロ)から円運動に変えるのだが、このとき発生する振動は往復運動(1次振動)のみならず、各部の複雑な動きにより2次、3次・・とさらに高次元の振動を生み出す。

 ただし、高次振動ほど影響は小さく、実用車で問題となるのは2次振動位までである。この振動対策については、爆発が等間隔で密なほど有利であり、高級車やスポーツカーに多気筒エンジンが選ばれる理由となっている。

 現在、量産車用エンジンの最少気筒数は4サイクルレシプロ直列3気筒だが、3つのピストン運動では「偶力」による振動が発生する上、クランクシャフト1回転に付き1.5回の爆発しか起こらないため完全バランスにはほど遠い。

 次に直列4気筒だが、往復運動を4つのピストンが互いに打ち消しあうため、1次振動については完全に消せる上、シャフト1回転あたり2回爆発するので滑らかになる。ところが、ピストンの直線運動とクランクシャフトの円運動を結ぶコンロッドは、直立→斜め→直立という動きになるので、ピストンの動きは、上死点から中間まで降りてくるときは長い距離となり、中間から下死点へは短い距離となる。4気筒では、このとき発生する力の向きが揃ってしまうため2次振動が発生してしまう。
 2次振動は、クランクシャフト1回転につき2回の周期で発生するため、アンバラスな半円形のシャフトを、クランクシャフトと逆向きに倍速回転させれば打消せる。これは発案者であるイギリス人の名前から「ランチェスター・バランサー」と呼ばれるが、現在では、三菱自動車が開発した発展型「バランサーシャフト」を用いた4気筒エンジンが増えている。

 一方、直列6気筒については、2次振動までも完全に消すことができるため完全バランスエンジンと呼ばれ、シャフト1回転あたり3回爆発するためより滑らかである。ただし、高回転領域になると「捻り振動」という3次振動が大きくなり、超高回転用には向いていない。
 ある意味理想的なエンジンであるが、全長が長くて横置きができず前輪駆動車には向かないことや、縦置きした場合、衝突時の衝撃吸収空間の確保が難しいこと、重くなりがちであることなどから、現在でもこだわり続けているBMWを除いて、各メーカーの撤退が相次いでいる。

 では、V型6気筒エンジンはどうか? 確かにV型エンジンについては「高級」なイメージが定着している。ところがあえて酷評すれば、諸般の事情によってV型6気筒エンジンが選ばれているに過ぎず、高級車を含め量産車にV6を使う積極的な理由など本来無いのである。
 「コンパクトかつ軽量で、横置き前輪駆動にも縦置き後輪駆動にも使える上、衝突安全や居住空間確保にも有利、振動が少なく滑らかで高級感がある。レーシングカーのような超高回転領域でも直列6気筒より有利。」と良いことずくめに思われているのは、必ずしも正しい認識ではない。(18話に続く)

(2004/11/18)

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