そ よ 風 は 何 い ろ
- roadster story -



DATSUN Fairlady SR311(1999年撮影)
1960年代に活躍し、米国でも大人気となった名車。

5 古き良き時代

 過去を振り返るとき、必ず使われる常套句 − 古き良き時代 −

 1989年当時、日本の景気は最高潮を迎え、企業も新人の確保に苦労するほどの右肩上がりの時代だった。男はストレートな格好の良さを求め、女はボディコンシャスな服装に身を固めていたが、それが、若さの素直な発露だったのだろう。

 本当は、「昔は良かった」などと懐古趣味的発言をするつもりはなくて、ただ、いつの時代にも世相というものはあるのだと言いたい。強いて言えば、携帯電話もインターネットも、その存在すらほとんど知られてなかった位だから、情報や利便性に流されていくだけの殺伐とした時代ではなかったし、世の中全体が今よりは前向きだったと思う。

 車の世界では、オートマティック車の比率がまだ低く、オートマ限定免許も無かった時代だ。

 そんな時代にロードスターは誕生したのだが、「古典的ライトウェイトスポーツ」と評されるような普遍的な価値と、この時代ならではの背景を背負っている部分があったようだ。

 ロードスターは、エンジンやミッションなどの、いわゆるドライブトレーンに既存の部品を流用していたため、目新しい技術はほとんどない。そして、そのスタイルから受ける印象も相まって、「古典的な良さ」ばかりが目立つのだが、注目すべきは量産モノコックボディで成立している点だろう。

 モノコックボディとは、薄い鋼鈑を卵の殻のような閉じた構造とすることで、ボディに加わる応力を分散させる方式であり、現在ほとんどの車が採用している。いうなれば、昆虫などの外骨格的な構造である。しかし、オープンカーはウエストラインから下、つまり、ほとんどフロアパン(床面)だけで剛性を確保しなければならないため、モノコックボディで成立させるのはなかなか難しい。だから、古典的名車とされる、英国のバックヤードビルダー(裏庭製作所)製スポーツカーの中には、頑丈なフレーム構造にG-FRP(ガラス繊維強化プラスティック)等の外皮をかぶせた構造のオープンカーも少なくない。フレーム構造は量産に向かないが、大規模な工場を必要としないという利点もある。

 一方、ロードスターで着目すべきは、ミッション後端からデフ(ディファレンシャルギアケース)までを剛性連結させる、パワープラントフレーム(PPF)の存在だ。PPFは脊椎動物の背骨に相当するが、後のRX−7(FD3S)やRX−8に受け継がれ、進化していく。

(2004/8/10)

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