そ よ 風 は 何 い ろ
- roadster story -
![]() BMWの1シリーズ(直列4気筒エンジン縦置き後輪駆動) A 居室との隔壁であり剛性の要・・・バルクヘッド B 前輪からの入力を受ける・・・ストラットマウント C A→Bを剛性連結させている・・・・・・・・・・鋼鈑 D 奥まった位置にある・・・・・・・・・・・・・・エンジン E 低重心化と吸排気管配置に寄与する斜傾積載 F エンジン前端は前輪車軸と同じ(フロントミッドシップ) |
18 高効率
優れたエンジンとはどのようなものだろうか? スペック(数値)は比較しやすいので、例えば最高出力は一つの指標にはなるだろう。リッターあたり100馬力を超えるエンジンはスゴイと言われるが、本当にそうだろうか?
高出力が偉いのなら、バイク用エンジンなどはリッター換算で200馬力出るものはざらにある。加工精度が確保できるならば、高回転・高出力エンジンというのはそれほど難しい課題ではない。一方、農業用トラクターなどは、大型のものでも50〜100馬力程度である。つまり、パワーだけでなくトルク特性、つまりシャフト軸が回転するときの力の出方もまた重要な課題だと思う。
17話では「回転バランス」という切り口からエンジンの特性を取り上げたが、エンジンについて考慮すべき項目は多岐に渡る。ここでは、エンジンが仕事をするときに、目的に対して無駄なく働く状態を「高効率」と呼んでみよう。高回転・高出力型のエンジンは「レーシングカー」の勝つという目的には必要には違いない。しかし、現実には無駄が多く理想的なエンジンではない。ショートストロークタイプに設計し太く短い吸気管をつけ、大きなバルブをできるだけ長い時間開かせれば高回転・高出力は得られる。しかも、低回転時にはバルブ遅閉じのため、吸気管に混合気が逆流し実質圧縮比がさがり、高回転時にはピストンが速く下がるので、高圧縮比の設定にしてもノッキングが起きない。
反面、摩擦や慣性による損失、騒音、ポンプロス、レスポンスの悪化、低いギヤによるフライホイール損失、エンジンを冷やすためのガソリン冷却、ピストン直径(ボア)が大きく、大きなバルブを取り付けるために燃焼室の形状は悪化し混合気の燃え残りが発生するなど、およそ無駄の固まりのようなものなのだ。さらに加えるならば、ピストンの「ボア×ストローク」(直径と往復運動の長さ)こそがエンジンの基本的性格をきめるのだが、最近では、バルブテクノロジー・ターボ・可変吸気等の、どちらかというと補足的な技術ばかりが話題にされているのはどうしたことだろう?
さて、排気量との関係からも見てみると、小さいピストンは摩擦や慣性が少なく速く動けるが力は小さい。一方、大きなピストンは力が出るが摩擦や慣性によるロスも大きい。また、燃焼室が大きくなると火炎の到達に時間がかかる事もあって、自動車の場合、1気筒あたりの上限の排気量は500〜600cc程度とされている。回転バランスを考えれば、直列エンジンなら4または6気筒が、V型エンジンなら8気筒以上が望ましい。従って、2000ccまでは4気筒(せいぜい2400ccまでだが、例外もある)、2500ccから上が6気筒という住み分けになるのだ。
なお、17話の続きになるが、V6では等間隔爆発や偶力の関係から、本来バンク角は120度としたいところだが、こんなに開いていると車に収まらなくなってしまう。コンパクトな60度バンクとするには位相クランク(6スロー:オフセットクランク)を用いて等間隔爆発とするが、オフセットクランクは隣り合うピンの接合面が極端に小さく強度が落ちるため、中間にウェブを挟んだりして重く長くなってしまうのだ。さらに、吸排気管の取り回しについてはスペースがかなり狭く、理想的な配置は不可能に近い。もちろん、サスペンションスペースとの取り合いにもなる。いわんや、FFでV6エンジンを積んでもデメリットばかりで良いことはほとんど無い(話が長くなるので割愛)。一方、直列エンジンの縦置きならば左右にたっぷりスペースが取れるため、吸排気管配置もサスペンションの自由度も増すのである。
かくして、コンパクト軽量なはずのV6は決して軽く仕上がらないし、V型ならではのトルクフルな特性もショートストローク化によって相殺され、得意とする超高回転領域は実際にはほとんど使われない。市販車への搭載メリットは総合的に考えても無いに等しいのだ。
近年、V6の前後長の短さを活かし、フロントミッドシップ的なレイアウトを採用してきているメーカーもあり多少は評価できるものの、それらは結局、理想的な直列6気筒が作れぬまま、FFと共用のはかれるV6に安易に逃げたとさえ言えるのではないだろうか。
(2004/11/28)
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 19 20 21 22 23 back close