そ よ 風 は 何 い ろ
- roadster story -




TVR Griffith 500

小型軽量なV8エンジンを、前輪車軸より完全に後ろに搭載している

7 消えゆくFR

 自動車の駆動形式は、エンジンの搭載位置と駆動輪の前後で4つに大別される。すなわち、FF、FR、MR、RRの4方式である。(4輪駆動車は、これらいずれかを発展・応用させたもの。)

 エンジンなどの重さを駆動輪にしっかり加えて、路面を蹴り出しやすくしたり、伝達ロスを少なくするためには、エンジンはタイヤの近い位置にあるのが望ましい。ところが、FRだけは両者が遠く離れているため、エンジンの軸出力は、重くて長いプロペラシャフト(ドライブシャフトとも言う)によって後方に伝達される。長い伝達は振動を発生しやすく、しっかりした固定がされていないと、デフのワインドアップ現象と呼ばれるギクシャク感も生じやすい。当然、車重も重くなる。また、縦軸の回転を、ファイナルギヤを用いてタイヤの回転方向である横軸回転に変換するのだが、この際、騒音が発生しやすい。そのため市販車では、歯車を斜めに切ったヘリカルギヤという構造で伝達するのだが、このとき多少のロスが生じる。そのような理由から、FR車は他方式に比べ燃料消費率が大きい(燃費が悪い)。また、居住スペースや荷室が狭くなるという欠点と相まって、80年代には、小型〜中型車のFR方式は次々に消滅していった。これには、FFの欠点を解消、もしくは補う技術が次々に開発されたという背景もある。

 一方、FRには、このような欠点を補ってあり余る魅力も存在する。舵を切る役目は前輪に、路面を蹴る駆動の役目は後輪に役割分担されているため、駆動力の変化による操舵への影響が少なく、操縦するときの感覚が自然であるのだ。もちろん、これは、MRやRRにも言えることなのだが、さらに加えるならば、車の動きに伴って車重が前後輪にどのように配分されるかという点も見逃せない。

 MRの操縦特性については前章で述べたとおりだ。一方、RRは、加速時には車重が強く後方に加わるため、2輪駆動の中では最高の駆動力を誇る。しかも、元々の前輪荷重が軽いため、減速時は強いブレーキをかけることによって、前輪・後輪の荷重が等しくなり、4輪全てのグリップを活かしきった制動力が得られる。その代わり、適切な操縦をしないと、凶暴なオーバーステアに見舞われることになる。FFは、その逆になる。
(オーバーステア : コーナリングにおいて、タイヤのグリップを上回るような強い遠心力が働いたとき、舵を切った以上に車が内側に巻き込むような挙動を示し、最悪スピンに陥るような特性。後ろが重い車で特にその傾向が強い。その反対はアンダーステアと言う)

このように、駆動形式による特性をつぶさに検証していくと、
 @重量物は車の中心の低い位置に配置したい。  Aオーバーハングと言って、前輪より前や、後輪より後ろに重量物は存在しない方が良い。
 B加速・減速・操舵のいずれにおいても重量の配分バランスに優れることが望ましい。 C前エンジン・後輪駆動(FR)であっても、できるだけそれらを近くに配置したい。
 Dミッション(変速機)とシフトレバーは近い位置にあり、カチッとしたダイレクト感が欲しい。
等々を満たすためには、FR方式の中でも、エンジンの位置を、前輪車軸より完全に後ろに配置する方法が理想的であることが分かる。


 これこそが「フロントミッドシップ」と呼ばれるエンジン搭載方法だ。
 そのためにはエンジンはコンパクトでなければならない。縦置きするわけであるから、前後長が短くなければ、車体は長くて重くなってしまう。
 マツダは、非常にコンパクトなロータリーエンジンを開発し、また、直列4気筒エンジンやV型6気筒エンジンも同時に開発してきた。幸か不幸か、マツダには直列6気筒エンジンが存在しなかったからこそ、フロントミッドシップという理想が貫けたとも言える。(直列6気筒エンジンには、他の方式では得られないメリットがあるのだが、それは別の機会に・・・。なお、日本のFR車の多くは、エンジンの前半分が、前輪車軸より前に突出している。)
 
(2004/8/19)

        10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 back close